ご挨拶
東日本大震災と福島第一原子力発電所事故から12年が経過しました。本学では、2012年にアイソトープ環境動態研究センターを設立し、福島陸域・水域モニタリング大学連合チーム(FMWSE)、福島原発事故により放出された放射性核種の環境動態に関する学際的研究(Iset-r:科学研究費補助金 新学術領域研究 研究領域提案型)などの中心として国内外の大学・研究機関と連携して研究を推進して参りました。
ここで培った研究成果や研究・教育ネットワークを活かし、2016年からは文部科学省 国際原子力人材育成イニシアティブ(原子力人材育成等推進事業補助金)の支援を受け、「原子力災害による環境・生態系影響リスクマネジメントプログラム(ENEP)」を開始しました。これは、旧来の原子力人材育成で不足していた、原子力災害後の環境中(オフサイト)での放射性核種の動態解析や影響評価および測定・モデリング技術を有した人材を育成するための教育プログラムです
福島第一原子力発電所事故より5年が経過し、この間発電所事故により放出された放射性核種の初期の環境中移行、および食物等への移行状況のデータが蓄積されてきました。その一方で、原子力災害による環境・生態系影響評価およびモデリング技術を有した人材の不足が顕在化しております。事故から得られた教訓を世界と共有し、世界共通の安全基準に反映し、世界の原子力施設の安全確保に貢献することは我が国の責務と言えます。
プログラムの開始から2019年度までの4年間の間に、28機関75名という多大な連携機関の協力のもと、延べ700名を超える参加者があり、当初掲げた環境科学分野における原子力人材育成という目標を達成できていると感じております。一方で、事故の記憶は年々薄れ、その研究も年々縮小している現実があります。原子力緊急時対応は、たとえニーズがなくとも常に必ず備えておかなければならない問題です。このような状況の中で、このプログラムの教育・研究ネットワークを維持・拡大していくことは、本学の大きな使命であると感じています。
そこで、2020年度からは、文部科学省 国際原子力人材育成イニシアティブ(原子力人材育成等推進事業補助金)の支援のもと、これまでのプログラムを発展させ、新たに「原子力緊急時対応と放射性廃棄物処理・処分を支える高度人材育成事業」を開始し、2023年度からも「原子力緊急時の環境影響評価と廃棄物処理・処分を支える人材育成事業」として継続しています。これは、これまでの原子力緊急時におけるオフサイトでの環境影響評価というテーマに加え、今後の原子力分野の最重要課題の1つである放射性廃棄物の処理・処分に貢献していこうというものです。
地層処分をゴールとする放射性廃棄物の処理・処分を推進していくためには、オンサイトの知見だけではなく、深層の地下水流動、地下深部での地層や火山活動、地形の安定性など幅広い地球科学に関する理解が必要不可欠です。本学地球科学学位プログラムの教員並びに、国内外の連携機関の協力のもと、環境科学・地球科学分野からの体系的・継続的な原子力人材育成を目指して参ります。
関係各位のこれまでのご理解、ご尽力、ご協力に深甚な敬意と感謝を表するとともに、今後益々のご指導を賜りますようお願い申し上げます。
筑波大学 放射線・アイソトープ地球システム研究センター センター長
原子力緊急時の環境影響評価と廃棄物処理・処分を支える人材育成事業 代表
恩田 裕一
育成する人材
今後の原子力分野の重要課題である緊急時対応や、災害後の環境影響評価と復興対策、放射性廃棄物の処理・処分の推進に貢献することのできる人材を育成します。
地球科学・環境科学の分野から、原子力のオフサイトとオンサイトをつなぐことを目標に、行政や教育の立場から国民理解の増進を担う人材、国内外で課題解決を担うことのできる専門家の輩出を目指します。
最終処分の推進には、専門的な研究や技術の開発が必要ですが、同時に国民理解の増進も欠かせません。専門外の方にもこのプログラムを通じて、自分で科学的に判断することのできる知識を身に付け、例えば行政や教育などの立場から、国民理解の増進に貢献することを期待しています。
カリキュラムの特色
本プログラムは、筑波大学大学院地球科学学位プログラムの特別プログラムです。
専門性に応じた3段階のコース、全9科目から構成されています。講義(全10コマ)4科目を受講する基礎コース、それに海外講師を中心とした特別セミナーと国内の実習・インターンシップを加えたエキスパートコース、さらに、海外での実習、インターンシップを加えたグローバルエキスパートコースです。
すべてのカリキュラムは、本学地球科学学位プログラムの正式開講科目であり、通常の学位修了要件単位とすることが可能です。また、プログラム参加の如何を問わず、受講することができます。筑波大学以外の学生にも、オンラインコンテンツを通じてご参加いただけます。
プログラム修了生には、通常の学位に加え、プログラム独自の修了証を授与します。
連携協力機関
本プログラムは、国内外の豊富な連携機関の協力のもと実施します。インターンシップ等は、本学以外の学生にも紹介可能です。
【国内】
日本原子力研究開発機構、量子科学技術研究開発機構高度被ばく医療センター福島再生支援研究部、原子力規制委員会六ヶ所原子力規制事務所、産業技術総合研究所、国立環境研究所、福島県環境創造センター、北海道大学、富山大学ほか
【海外】
国際原子力機関(IAEA)、放射線防護・原子力安全研究所(仏IRSN)、生態・水文センター(英CEH)、リバプール大学(英)、シェフィールド大学(英)、プリマス大学(英)、ノルウェー生命科学大学 環境放射能研究所(CERAD)、ウィーン大学(オーストリア)、チェルノブイリエコセンター(ウクライナ)、農業放射能研究所(ウクライナUIAR)、水文気象研究所(ウクライナUHMI)、コロラド州立大学(米)、ローレンス・バークレー国立研究所(米)ほか